生活者の目線にたった、
「理由」のあるデザインを発信していきたい
株式会社クレオ
柳 舜太さん(マルチメディア本部・マルチメディア企画部・クリエイティブ2課)
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木下 奈津子さん(マルチメディア本部・マルチメディア企画部・クリエイティブ2課課長)
1964年創業以来約60年にわたって、メーカーや小売業をクライアントとした商品の販売促進をプロモートしてきた株式会社クレオ。同社がもっとも大切にしているのは、商品を手にする生活者に寄り添った、総合的な企画力です。入社3年目を迎える柳舜太さんは、クリエイティブ2課に所属するアシスタントデザイナーとして、課長でありアートディレクターである木下奈津子さんの指導のもと、早くも第一線で活躍を始めています。商品企画から実際の商品デザイン、CMやWebなどの広告まで、幅広い仕事にどのような思いで取り組まれているのか、うかがいます。
企画のコンセプトを新鮮な発想で実現
木下 新人研修ではジョブローテーションで、1年かけて主要なクライアントのさまざまな仕事を経験してもらいました。長いお付き合いのお客様も多く仕事内容も多様ですから、いい経験ができたと思います。その後、柳さんは私がいるクリエイティブ2課への配属が決まって、ちょうど1年一緒に仕事をしてきました。当初、柳さんは穏やかで控えめな印象がありましたね。その印象は今も変わりませんが、じつはガッツがあって、厳しい局面でも涼しい顔をしながら力づくでやりきる姿も目にしてきました。
柳 経験が浅くても積極的に意見が言えて、仕事も任せてもらえる環境で、とても楽しい職場です。この1年では、ある製菓会社のキャンペーン企画を担当できたことが良かったです。木下さんに、全体のディレクションから細かなビジュアルの見せ方までアドバイスをいただきながら、ロゴやイラスト、Webページの制作やノベルティの選定など、キャンペーン全体をやりきることができました。

木下 あのキャンペーンは楽しかったね。私たちは通常、クライアントの希望を実現するために、社内の営業部や企画部とも話し合いながらプロジェクトに取り組みます。そのキャンペーンも企画部と一緒に進めましたが、特設したWebサイトへの導入の仕方は、柳さんが率先して提案してくれました。世代ごとにその時代に流行していた表現を用いる、例えばギャル世代ならギャル語で対応するというように、違う入り方をつくったWebサイトは、なかなか斬新でした。イラストも柳さん自身が、一生懸命描いてくれましたね。

柳 クライアントの意図を汲んだ企画のコンセプトが「幅広い年代の方たちに食べてもらいたい」というものだったので、40代、50代の方が見れば懐かしいと思う表現も、Z世代から見ると逆に新鮮に映るかもしれない、と発想しました。お菓子を通じて、世代の違う人たちと話が盛り上がったら楽しいな、と。
生活者の一番近いところでデザインを発信する
柳 クレオに入社したいと思った理由は、「なぜ?」を大切にしている会社なのかな、と感じたからでした。クライアントの依頼を受けたときに、何を求められているのかを考えて、理由のないデザインではなく、しっかりと根拠があるデザインをする。この会社であれば、大学での学びが生かせるんじゃないか、と思いました。
木下 大学ではどんな授業があって、どんなことを学んだの?
柳 そうですね。明星デザインではデザインの考え方を学ぶ「企画表現」という授業が根幹となっていて、僕はとくに、地域と協働する「企画表現5」で得るものがたくさんありました。僕たちの年度は、高尾山の日本遺産登録をPRしたいという八王子市からの依頼が課題となりました。グループワークで現地に足を運んだり、アンケートを取ったりして問題点を見つけ出し、解決策を探ります。僕たちのグループは高尾山だけでなく、次世代に八王子市の歴史や魅力も伝えていくような、遊んで学べる「すごろく」を企画し、市役所の人たちにプレゼンテーションしました。これは実際に採用されて、市民に配布されています。
木下 すごい! それは今の私たちの仕事の取り組み方と近いところがありますよね。社内にはマーケティング部もあり、調査はそこに任せていますが、方法や項目には私たちからも要望を出すことができます。柳さんは、マーケティング部とも頻繁にコミュニケーションをとっていますよね。わが社は小売店のポップやチラシ広告づくりから創業していることもあって、お客さん目線をとても大切にしてきました。今もその考え方がベーシックにあります。ともするとデザイナーはつくるだけで満足してしまいがちですが、柳さんは現場に足を運ぶことを嫌がらない。そういう姿勢や発想の源は、大学の授業にあったんですね。
柳 生活者目線のデザインができるというところも、クレオを志望したもうひとつの理由です。ここではセールスプロモーションに沿ったデザインが主な業務ですが、それは商品を買う人にとって一番近い広告です。デザイナーとして伝えたいことがよりダイレクトに伝わる感触がありますし、逆に生活者の反応もダイレクトに返ってきます。
木下 広告代理店というと実際の制作は子会社が担うことも多いなか、わが社はクライアントから直接依頼されるプロジェクトが多い。印刷工場も自社でもっていますから、最初から最後まで、すべてにデザイナーが関わることも可能です。それこそやる気次第で、企画から営業まで、なんでもこなしてしまうクリエイターも存在します。そんななかで柳さんは、2年目にしてコンセプトをしっかりたてることができるな、と思っていました。
天才じゃない。だから一つひとつ努力する
柳 コンセプトを考えることが好きなんです。学生時代にはゲームプランナーになりたくて、ゲーム会社にインターンに行ったこともあります。そのときに提出したゲームの企画書がある賞を受賞して「自分は天才かも」と思ったこともありました(笑)。

木下 初めて聞いた(笑)。
柳 就職ではグラフィックデザイナーを志望してクレオに入社しましたが、同期のデザイナー3人のうち、僕以外は美術大学出身です。クリエイティブ課の先輩たちもみんなクオリティの高い仕事をしていて、本当にここでやっていけるのか、最初はとても不安でした。クレオでは毎年、新人デザイナーが翌年の社の年賀状をつくるコンペが開催され、社長にプレゼンテーションするんですが、そこで僕の案が選ばれました。その期の社の目標を表したコンセプトが良く伝わるデザインだったと講評していただけてすごく嬉しかった。コンセプトだけは負けない、という意気込みでつくり込んだので……。とはいえ、表現力はまだまだ弱いですけど。
木下 私は初めから、柳さんのデザインスキルに不安はない、と思っていましたよ(笑)。それにデザインスキルも、企画力も、発想力も、実際に仕事をしていくなかでみんな鍛えられていくものです。アウトプットするものがよりコンセプチュアルかビジュアルで目を惹くものかは、優劣ではなく個性の範疇なのかな、と思います。
柳 ええ。でもやっぱり、表現の幅が狭いと日々実感しているところです。今は社外のアートディレクター養成講座を受講して、個人的に勉強中です。

木下 毎回課題を与えられて、デザイン案を模擬制作する講座ですね。柳さんは社内でも、積極的に自分のデザインをみんなに見てもらって、意見を聞いたり指導してもらったりする。若い人は、自分の作品を人に見せることが気恥ずかしいことも多いのですが、柳さんはみんなからアドバイスをもらい、それを踏まえて修正する。その姿勢が、まずすごい。私もその講座の講評会を見に行きましたが、柳さんが高い評価を受けていることもありました。
柳 講師の方たちには、細かいところまで指摘していただけるので、それを今の仕事にもしっかり生かしていきたいです。
木下 もちろん向上心は大事だけど、楽しんで仕事をしてほしいと思っています。これはクリエイター全員に言いたいのですが、何かをつくるときは、その周りごと全部好きになってほしい。その商品はもちろん、その商品を買う人のことも好きであってほしいし、クライアントや一緒に仕事をする仲間のことも、みんな好きであってほしい。それが自分のデザインへの理解度を深め、説得力を増すことにつながると思うんです。
柳 はい。
木下 私はこの1年で、柳さんの積極的なところを見てきていますが、ほかのみんなは、そういう面があることを意外と知らないんじゃないかな。それは柳さんの長所だから、もっとグイグイいって、思う存分天才っぷりを発揮してください(笑)。
柳 いえ、天才ではなかったので……。一段一段、努力して成長していきたいと思います(笑)。よろしくご指導をお願いします。
