ベンチャー企業のデザイナーとして、
飽くなき成長に挑む
グラフィックデザイン事務所デザイナー+フリーランスデザイナー 桐山成彬さん(リードデザイナー)
+株式会社ビズアップ ディレクター 設楽響子さん
現在はグラフィックデザイン事務所に勤務しながら、それ以外の時間を使ってフリーランスデザイナーとしての制作を続ける桐山成彬さん。その情熱は、明星デザインで学んだ「『ヒト・コト・モノ』をつなぐデザイン」を実現したいという思いに支えられています。そんな桐山さんの思いを受け止めてくれるのが、50名以上の契約デザイナーを擁し、年間1000社以上のロゴを作成する国内最大のロゴ専門デザイン会社、株式会社ビズアップ。そのディレクターとして桐山さんとタッグを組んできた設楽響子さんを交えて、桐山さんのデザインの考え方やその方法、デザインだからこそできることなどを話し合っていただきます。
フリーランスで働くということ
桐山さん 大学を卒業して5年目になります。グラフィックデザイン事務所に在籍しつつ、同時にフリーランスの仕事も受けています。理由は、もっとデザインの実力を上げたいから。それで事務所の社長に相談して、フリー契約での仕事ができるビズアップを紹介していただきました。
設楽さん ビズアップでの私の役割は、主にクライアントとデザイナーをつなぐエージェント的役割を担っています。まず、お客様の要望をじっくりお聞きし、デザインのプランをつくり、弊社と契約のあるデザイナーから適任と思われる方に依頼します。と同時に、どうデザインをつくり上げていくか、ディレクターの役割も担っています。
桐山さん デザイン事務所は、週5日、10時から19時まで勤務で、それ以外の時間をフリーランスの仕事にあてていて、だいたい週に1、2件の案件を頑張って受けています。ビズアップのディレクターさんからの依頼では、設楽さんが一番多い気がします。
設楽さん 桐山さんとのお仕事は2年くらいになりますね。私はお客様とのやりとりをとても大切にしていて、その情報はすべてデザイナーに伝えるように心がけています。桐山さんは最初にご依頼したお仕事から理解度がすごく高くて、私としても安心して任せられるって感じですね。桐山さんは弊社の契約デザイナーのなかでも年齢が若く、時代が求めているものを読みとる感度も高い。すごく頼りになる存在です。
桐山さん フリーランスの難しさは、基本的に、クオリティの精査をするのが自分自身なので、どれだけ自分に厳しくいられるか、というところだと思います。また、いろんな人とやり取りをすることになるので、コミュニケーション力も大事だと感じています。
設楽さん 確かに。ビズアップでは契約デザイナーの応募に対して、まずはデザイン力が一定のレベルに達しているか確認します。ですがそれ以上に、人としてきちんとしたコミュニケーションがとれるかというところを見ています。もし学生さんで、フリーランスのデザイナーをめざすのであれば、大学では、今の世の中に対して発信力のあるデザインを学ぶと同時に、コミュニケーションの力もしっかりと身につけると良いと思います。
問題解決のためにデザインには何ができるのか
設楽さん 桐山さんの仕事の仕方を見ていると、感覚派というよりは、お客様が求めているものを論理的に探ろうとしているように感じます。大学ではどんな勉強をされたのでしょう?
桐山さん 明星大学のデザイン学部は、何かをデザインするときには、そこにどういう問題があって、その問題を解決するためにどんなアウトプットが必要なのか、ということを学ぶところでした。特に問題の発見から解決を導くプロセスに重点をおいていました。
設楽さんデザインを問題の解決、ととらえることは重要ですよね。
桐山さん 以前の設楽さんとの仕事で、打ち合わせたデザインの方向性を途中で考え直したことがありましたよね。お客様が抱える問題や思いは、本当はこうじゃないかと図にして提案したらそれが採用された。あれはすごく明星デザインっぽいアプローチだったと思います。
設楽さん お客様には要望が多い方も、逆に少ない方もいらっしゃいます。丁寧にヒアリングすることで本当の問題や思いが見つかるのであれば、そこにしっかり応えていきたいです。
桐山さん 最近では、伊豆のおはぎやさんの仕事が印象に残っています。
設楽さん 私もです! ビズアップでは、お客様やデザイナーとのやり取りは、基本オンラインか電話です。ところがそのお客様は打ち合わせを進めるうちに、どうしても私と桐山さんと直接会って話したい、と。ビズアップでは特殊な例でしたが、対面することでより良いものができる、と感じました。
桐山さん おはぎのお店を新規出店する方からの依頼でした。それまでは会社経営に携わってこられ、引退後は亡くなった奥様の大好きだったおはぎで「たくさんの人に笑顔を届けたい」とおっしゃる。そのお話をうかがって、丸みをもたせた柔らかいデザインに変更しました。ロゴを紙袋に展開したイメージモックも作成して、ロゴから広がるブランドづくりまで提案しました。
設楽さん とても喜んでいただけましたよね。ビズアップはロゴデザイン専門の会社ですが、イメージモックがあることで、お客様は将来のお店のあり方を具体的に想像できます。それに桐山さんのプレゼンテーションは、そのデザインに込めた思いやそこに至るプロセスがしっかり伝わって、お客様にも納得感があると思います。私自身、お客様とデザイナーの三者で会うのは初めてのことでしたので、すごく素晴らしい時間を味わうことができました。
「『ヒト・コト・モノ』をつなぐデザイン」への思い
桐山さん 大学の卒業時に、当時の学部長から「愛媛のみかん農家がパッケージデザインをできる人を探しているけどやってみないか?」と紹介され、農家さんのお話をうかがいに行きました。ちょうど規格外で商品にならないみかんをゼリーにする新しいプロジェクトがたちあがるとのことだったので、それをブランド化する提案をしました。結果大好評で、農家さんにも「デザインには力がある」とわかっていただけた。そこから続々と新しい商品が生まれ始め、僕はパッケージデザインを工夫することで、そのブランドの成長をお手伝いできました。
設楽さん 桐山さんのデザインの原点ですね。
桐山さん 卒業後は菓子メーカーに就職してパッケージデザインを担当しましたが、明星デザインで大切にしていた「『ヒト・コト・モノ』をつなぐデザイン」の「ヒト」が遠くに感じられてしまった。もちろんインハウスのデザイナーも社内で問題を見つけてそれをデザインで解決するのですが、でも僕はデザイナーとして直接、人と一緒になって問題を解決したい。それで、企業や自治体などのブランディングやコンサルティングまで視野にいれてデザインを考える今の事務所に転職したんです。
設楽さん 私はディレクターというポジションのため、広くブランディングやコンサルティングまで担当した経験はありませんが、できたら面白いだろうな、と思います。ですから、桐山さんが大学で学んだ「デザインはアウトプットだけではない」ということにもとても共感します。人の思いをくみとって形にしてお渡しする、そのきっかけがロゴであっても、今まで以上に私たちのできることが新たに広がる可能性はありますよね。
桐山さん ロゴは提案したらデザイナーの手から離れていくもの。でも、離れたあとにどんどん育っていくのが良いロゴデザインだと思います。その最初の方向性を探るのがヒアリングで、設楽さんは本当に丁寧に細かくヒアリングシートをつくってくださるので、僕もできるだけ読み取って表現できたらいいなって、毎回思っています。
設楽さん 良かった。嬉しいです。
桐山さん 設楽さんのディレクションで制作した大学のロゴが、『デザイン年鑑』に掲載されることになりました。たくさんの応募のなかから選ばれたというのは、僕の自信にもなります。けっこう攻めたデザインだったので、ちゃんとディレクターとデザイナーの方向性が合致して着地できたことが、個人的にはすごく嬉しかったです。
設楽さん 正直、私が今まで桐山さんのディレクションしたなかで一番素敵だな、と感じました。桐山さんのデザインはいつも素敵だけれど、一番感動が大きいデザインだったんです。
桐山さん 僕には、クライアントであるお客様と何年も並走しながら、デザインが担えることを考えていきたいな、という思いがずっとあります。でも今の自分にはアウトプットの力がぜんぜん足りない。いくらコンセプトを考えても、形として出すものが良くなければ意味がないですから。今はその力を伸ばしたい。だからハードワークでも頑張ります(笑)