明星大学デザイン学部では、デザインを学びたい高校生のためのオンライン公開講座「DeXT(Design NEXT)」を2021年12月4日(土)、2022年1月8日(土)、2月11日(祝)の全3回にわたって開催しました。DeXTは、高校で学んでいる文系・理系などの分野やデザイン経験の有無に関係なく、デザインに興味のある人なら誰でも気軽に参加できる公開講座です。
その目的は、実社会で役に立つデザインの本質や基本を伝えること。また、高校生が大学生と一緒に「日野市の水と緑の魅力を伝えるためのポストカード」のデザインに挑戦するという実践的な学びを通して、地域の課題や魅力に目を向けるきっかけになることを目指しています。
デザイン学部としても初めての試みとなった高校生向けの公開講座の模様をダイジェストで振り返ります。
デザインは誰でも学んでおくべき、その理由は?
本題に入る前に、そもそも「大学でデザインを勉強したい」と決めている高校生ならともかく、ほかの分野に進もうとしている高校生がデザインを学ぶ必要性があるのか、疑問に思われる方もいると思います。
私たちは、デザインは誰でも学んでおくべきものだと考えています。その理由の手がかりになるのが、明星大学デザイン学部の大学生が学んでいるデザインです。
デザインと聞くと、かたちや色といった見た目のビジュアルを考えることと思いがちですが、デザイン学部が教えているデザインはもっと広義なもので、シンプルに言えば「身の回りにある困り事や不便を解決すること」です。
私たちはデザインを、クライアント(依頼主)が抱えている課題から解決策を企画し、表現としてかたちにする「企画と表現の掛け算」と捉えています。「調査→アイデア発想→企画案作成→説明→制作作業」というデザインワークを繰り返す中で、かたちや色を考える美的構成力に限らず、課題や問題を発見し、解決するための思考法や企画力、コミュニケーション力などを高めるデザイン教育を行っています。
「必要な情報をどうやって収集・整理・分析するか」「どんな表現で相手に届ければ伝えたいことを理解してもらえるか」「作業をうまく進めていくための人選やスケジュール管理をどうするか」など、実社会のさまざまな仕事に共通することを考えるのもデザインの領域であり、だからこそ、デザインの学びは、デザイン以外の分野を突き詰めたいと考えている人にも役立つものなのです。
今回、オンライン会議ツールのZoomを利用して完全オンラインで実施されたDeXTには、8人の高校生と14人の大学生が参加。高校生はデザイン学部の教員によるレクチャー(下記)や実際のデザインワークを通して、こうしたデザインのエッセンスに触れていきました。
商品やサービスの仕組みや構造から考える「コトのデザイン」のためには、リサーチ(調査・分析)が創造のためのツールとなります。リサーチが新たな商品開発につながった事例を取り上げながら、デザイン学部で教えているリサーチ手法の基本を解説しました。
デザインの世界では、さまざまな手法を用いてアイデアを自由に発想しています。このレクチャーでは思考を発散させるエクスカーションや、スケッチや模型づくりのコツなど、アイデア発想のポイントをわかりやすく解説しました。
リアルな社会課題に挑戦し、アイデアが製品化されるチャンスも
講座では上記以外にもデザイン検討のヒントになるさまざまなレクチャーを実施しましたが、高校生が大学生とチームを組み、クライアントの課題を解決するためのデザインワークに挑戦できるのもDeXTの大きな特徴です。
今回、クライアントの東京都日野市から出された課題は、「日野市の水と緑の魅力を伝えるためのポストカードのデザイン」。
二つの大きな川が流れる肥沃な土壌のおかげで古くから農業が盛んだった日野市は、昭和初期に多くの工場が進出し、戦後は宅地開発が進んで人口が急増しました。水と緑と共存し、利活用していた時代から、水と緑を侵食・汚染する時代へと移り変わる中、日野市は持続可能な地域づくりを率先して進め、2019年度には内閣府から東京都で初めて「SDGs未来都市」に選定された自治体でもあります。
そんな日野市から与えられたテーマ――水と緑の魅力を多くの人に知ってもらい、持続可能な循環型の地域づくりや日野市のSDGs推進を加速させるために、どんなポストカードをつくれるのか? 高校生はレクチャーで学んだことを早速応用しながら、大学生との協働作業に臨みました。
協働作業では高校生1人につき2人の大学生がサポートに就きますが、デザイン活動の主役はあくまで高校生。限られた時間の中で具体的なデザイン案にたどり着けるように、大学生はアイデア検討に役立てられるようなデータ収集やリサーチ活動を率先して進め、高校生にフィードバックしました。
また、デザイン案をほかの参加者に向けてプレゼンテーションし、みんなで意見を出し合う発表の場(講評)を設けているので、高校生は自分では気付かなかったアイデアの良さや可能性に改めて向き合い、自分自身の視野を広げることもできたはずです。
ポストカードの企画提案だけで終わらせずに、優秀賞(日野市賞、福永紙工賞、meide賞)に選ばれた企画は、実際に製品化されるのもポイント。講座ではポストカードの製品化を担当する印刷加工会社、福永紙工の山田明良社長をお招きし、同社の取り組みに関するオリエンテーションも実施しました。
第一線で活躍するデザイナーと紙にまつわるさまざまなデザインプロジェクトを展開する現場の方から、貴重なデザイントークを聞けるのもDeXTならではと言えます。
以下、採用されたポストカードです。
ザリガニつり
日野市のみずとみどり
日野市アドベンチャーブック
受講した高校生の感想は?
さて、DeXTに参加した高校生はどんな感想を持ったのでしょうか? 今回の講座に参加した高校生たちの声を最後にご紹介しましょう。
・「水と緑の魅力を伝えるポストカード」という課題に対して、いろんなアイデアを見られたことがとても良い刺激になりました。また機会があれば参加したいです。 ・楽しかったです。自分が出した案を大学生が一緒になって考えてくれて、プレゼンテーションの講評でもためになることを教えてもらえました。 ・みんなが出してきたアイデアがすごすぎました。こういうアイデアにたくさん触れられる機会を与えてもらってありがとうございます。 ・どんなことをやるのかわからなくて初めは緊張したけれど、大学生に助けてもらえたし、明星デザインでどんなことを学んでいるのかを教えてもらえたのも楽しかったです。 ・大学生と一緒にデザイン案を考えるのは初めての経験でしたが、楽しかったです。 ・高校では体験できないようなことに取り組めたのがうれしかったです。デザインは難しいと実感したけれど、高校生と大学生の視点の違いを知れたし、他の人のアイデアを見られる機会も貴重でした。 ・自分の案をもとにして、大学生の2人が具体的な形にしていく作業を見たり聞いたりしているのがすごく楽しかったです。 |
DeXTは今後も高校生を対象にした講座を実施予定です。デザインを専門的に学んでみたいという人はもちろん、デザインで得られるスキルを生かしてほかの分野に進みたいという人も、ぜひ参加してみてください。