株式会社 白水社
渡邉裕貴さん(事業本部 制作部 制作4課)
+
松山康信さん(事業本部 制作部 制作4課 課長、監理技術者)
東京・日本橋に本社を置く株式会社白水社は、商業施設をはじめ、イベントスペース、文化施設やオフィスなど、あらゆる空間の企画・デザインから、設計・施工、アフターメンテナンスまでをトータルに行う、70年以上の歴史をもつプロフェッショナル集団です。明星大学デザイン学部を2018年に卒業した渡邉裕貴さんは、その制作部制作4課に在籍して4年目、常に現場の第一線に立って、数多くの職人さんたちとともに仕事を完成させてきました。「クールなマネジメント力と高いコミュニケーション力をあわせもつ」と、渡邉さんの能力を高く評価する直属の上司、松山康信さんとともに、その仕事ぶりと、これからの仕事のあり方を、語り合っていただきます。
施工管理の現場で、学びの成果を実感
渡邉 僕は、空間づくりをトータルに手がけるこの会社で、ずっと施工管理を担当してきました。スケジュール管理や職人さんの手配、品質のチェックなど、現場に常駐して一からものづくりに携わり、最後にお客様へ引き渡すまでが仕事です。
松山 渡邉さんは入社して4年目を迎えますが、もう十分に一人で仕事を任せられます。ずいぶん早いランクアップです。お客様との折衝でも冷静に、対等に対応ができている。デザインの提案から物件の完成まですべてチームで行う僕たちの仕事では、チーム内のコミュニケーションも大事です。チーム一丸となってお客様のニーズに応えられるのは強みですが、それだけに「言った、言わない」の食い違いが発生しないように、綿密なコミュニケーションを行う必要があります。
渡邉 さらに現場では、初対面の職人さんであっても、ちゃんと製作意図や注意事項を伝えることが重要となります。明星デザインではコミュニケーションの方法を実践的に学びますが、じつは僕は、人と話すのが苦手だったんです。だからそこを一番がんばって学んだことが、今の仕事にすごく生かされていると思います。
松山 僕たちはプロデュースする立場で、実際につくるのは大勢の協力業者さんです。ですからそこのコミュニケーションがうまくいかないと、大事故につながることもある。品質管理とともに、安全管理もとても重要なんですね。
渡邉 明星デザインで学んだプレゼンテーション力も生かせています。現場は常に動いていて、時には図面通りいかないこともあって、そんな時は「こうしたらどうでしょう」と、設計者やお客様に提案します。で、了承いただいたら、今度はそれを職人さんたちに伝える。コミュニケーション力はもちろん、プレゼンテーションの力も両方必要なんです。
松山 渡邉さんは、非常にクールに仕事をこなしている印象がある。わからないことがあっても、「わからないので教えてください」ではなくて、「僕はこう思うけど、どうでしょうか」と聞いてくる。そういうところはすごく感心します。今は動画やSNSなど調べるツールもいろいろあるので、それをうまく仕事に生かしている。
渡邉 そのリサーチ力も、明星デザインのおかげです。でも実際の現場では、ネットや本の知識だけでは限界があります。入社1年目には、まだ何もわからない状態で先輩について現場に入りましたが、職人さんやお客様はそんなのぜんぜん関係なくて、どんどん僕に聞いてくる。「新入社員だからわかりません」は通用しない。なので少しでもわからないことは、すぐに上司や先輩に聞きました。やっぱり、多くの現場を経験してきた先輩たちからはたくさん学びました。
これまでで一番印象に残っている仕事は、保育園の内装です。建築基準法や消防法などが複雑で、上司に聞いたり、消防署に行って質問したりと、大変でした。設計者も知らなかった細かい法規制もあって、現場で図面を変更しながら進めることもありました。ものづくりをプロデュースする、そういう実感が持てた仕事になりました。
やりがいを感じられる仕事。だから、続けていける
松山 弊社には、建築学科出身者だけではなく、心理学を学んだ人や体育大学出身のスポーツマンなど、いろんなバックボーンを持つ人たちがいますが、今の話を聞いて渡邉さんは、この仕事にもっとも重要なことを、すべて大学で身に着けてきたんだなと感じました。
渡邉 僕にとって明星デザインは、小中高大を通じて一番楽しく物事を学べた場所です。デザインを企画と表現の総合力として学んだことで視野が広がった。何より、プロダクトやメディアデザインなど、いろんな分野に触れられたことが、今の現場でも生かせています。
松山 経験を積むと2Dの設計図が頭の中で3Dに描けるようになり、現場に入る前に問題点がわかるようになります。それでも現場では、修正しなければならない問題が見つかり、急遽、改善策を立てなければならないこともあります。
渡邉 そういう時は、明星デザインで学んだ発想法が役立っています。違うものを組み合わせて新しいものをつくる、掛け合わせて機能を追加する、というように頭の引き出しを増やす訓練をしてきたことで、柔軟に対応しやすくなっていると感じています。ただ、大学時代に、もう少し自主的に建築の勉強をしておけばよかったかな、とは思います。
松山 施工管理の仕事では、ものづくりが好き、という熱意が何より大切です。デザインやインテリアというとちょっとおしゃれなイメージですが、施工の現場はもっとシビアで泥臭い世界ですから(笑)。
渡邉 僕も最初はデザインを志望して入社しました。でも現場を知らないと何もできないので、まず現場を経験して、真夏の暑さや冬の寒さの中で、職人さんと一緒に土やセメントを運ぶことから始めました。最初はつらかったけれど、今では一日中会社で図面とにらめっこしているより現場にいるほうが楽しいし、自分に合っていると思うようになりました。仕事が仕上がってお客様に「綺麗」と喜んでいただけると、やりがいを感じます。 やっぱり、楽しいと思えるから続けていける。オープンした後には、「ここは僕がつくったんだよ」と、家族に自分の仕事を見せることもあります。そんな時には、家族の意見も、まわりにいる他のお客様の反応も、やっぱり気になっちゃいますね。
現場での高いマネジメント力と、その先に求められること
松山 渡邉さんは、上司が残業していても、自分が帰ると決めた日にはパッと定時に帰るというように、いい意味で非常にスマートな仕事の仕方をしていますよね。つまり、自分のスケジューリングがしっかりとできている。
渡邉 現場が始まるとその期間はお休みがどうしても不定期になるので、働く時は働き、休む時はちゃんと休む、自己管理は重要だと、入社2年目から意識してそうするようにしています。
松山 スケジューリングは、施工管理ではもっとも重要です。工期や予算が決められている中で、大勢の職人さんたちが参加する現場を、すべて調整してスケジューリングする。いったん現場を任されたら、そのすべてを仕切る責任が生じる。渡邉さんはそれをちゃんと実現できるばかりか、プライベートとのバランスも、取ることができている。相当マネジメント能力が高いんでしょうね。明星デザインでは個々のスキルだけでなく、それを総合力の中に位置づけながら学んだということですが、そういう学びが、彼の高いマネジメント力にもつながっているのかもしれませんね。
渡邉 任されればやるしかないので、必死です(笑)。
松山 これからは、現場のオープンが仕事の終了ではなく、その先まで考えられると、さらなるステップアップとなると思います。使いやすく美しい空間ができあがっても、日々使っていれば汚れたり壊れたりする。そのメンテナンスまで考えて設計・施工する。お客様に長く使っていただける空間をつくることを、考えていってほしい。
もうひとつは、他の人が何と言っても、「僕はこうしたい」という意思を強く持ってほしい、ということですね。
渡邉 これまでは上司や先輩のサポートを受けていましたが、一つの施工管理の全部を僕一人でやってみたいです。
松山 その機会は、すぐに来ますよ。どんな空間を手がけてみたいっていう希望はある?
渡邉 自動車のディーラーの店舗空間をやってみたいですね。お客様にとって心地よい空間を作りたい。泥臭い現場でがんばって、でも仕上がりは「かっこいい」、が実現できたら最高ですね。