「八王子活性化プロジェクト」とは、3年生前期の必修科目「企画表現5」において取り組む地域連携プロジェクトです。
八王子市から依頼された地域活性化をテーマにした課題に対して、学生たちはチームで調査・分析を行い、それぞれの得意分野を生かしながら企画を立て、関係者に向けたプレゼンテーションを実際に行います。
前稿では1年から3年まで開講される「企画表現演習科目」の特色や、過去に提案された企画をご紹介しましたが、本稿では2020年度のプロジェクトがどんな形で進められたのか、4人のチームリーダーに振り返ってもらいました。
コロナ禍で進められたプロジェクト
本題に入る前に、今年度のプロジェクトを簡単に振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大によって大学の授業がオンラインに完全移行し、フィールドワークが主となる「企画表現5」はその実施自体が危ぶまれました。
しかし、早い段階からチーム分けや課題の振り分けを行っていたことが功を奏し、学生たちはオンライン会議システムを用いながらリサーチやアイデア出しを進め、プロジェクトの総仕上げとなるプレゼンテーションもオンラインで実施されました。
八王子市から依頼された課題は、「八王子農業のブランド力向上に繋がる企画提案」「鹿島・松が谷地域の魅力を伝える提案」「高齢者の社会参加を促す提案」「学生の地元企業への就職率向上策」の4つ。次項からは、20チームのなかから4チームのリーダーにオンラインで参加してもらった座談会の模様をご紹介します。
チームリーダー座談会
登場してくれた学生 神澤結菜さん/チーム名「あぐり」 岡咲真帆さん/チーム名「Tama」 佐々木花梨さん/チーム名「しらはと」 元木優人さん/チーム名「いとのわ」 |
——はじめに、みなさんが取り組んだ課題と提案について教えてください。
神澤:私たちのチーム「あぐり」の課題は、八王子農業のブランド力向上です。リサーチを進めるなかで八王子市に主だった特産物がないことに着目し、「八王子公認野菜」を認定するという提案をしました。一定の基準を満たした青果物を公認野菜と認定して、店頭でほかの野菜と差別化するために公認マークやシールを添付し、さらにSNSで青果物に関するクイズを出題して、より多くの人に知ってもらうことを目指しました。
岡咲:「Tama」が取り組んだのは、鹿島・松が谷地域に訪れる機会をつくる、住みたくなるような企画の提案でした。この地域は緑が多く魅力的な環境ではあるものの、目立った特徴がなく、公園の活用や住民の交流が少ないという問題があります。そこで、街のシンボルとして地域の頭文字を取った“かしまつの木”を4つの公園に設置し、いちょうの葉をラミネートしたメッセージカードを飾りつけることで、地域の連携感や団結力を強め、住みやすい街づくりにつなげたいと考えました。
佐々木:「しらはと」は、高齢者が積極的に社会参加し、健康寿命の延伸を図れるように「医食同源農会」という企画を考えました。病気を治す薬も食も、ともに健康を保つために欠かせないという医食同源の考えをもとに、農作業体験で身体を動かし、自ら育てた野菜を食べることで健康的な食事をとる、また交流の輪を広げることで、高齢者の運動習慣や食生活の改善し、生きがいや幸せを実感してもらうというものです。参加者一人ひとりの健康状態に配慮して作業を細かく分担し、誰もが無理せず参加できる仕組みも考えました。
元木:私たち「いとのわ」は、学生の地元企業への就職率向上策という課題に対して、「はちしるWEEK」と題し、学生の就職希望先に八王子市の企業も選択肢に入れてもらうことを目的にした企画を提案しました。地元の学生に市内の企業や就職制度が認知されていないという問題を解決するため、大学構内にQRコードをレイアウトしたポスターを掲出して、クイズに回答しながら地元企業への理解を深められるというものです。まずは明星大学でスタートし、認知度や学生の参加率が増えれば、市内の他大学にも展開したいと考えました。
どのように企画を進めたか
——学生は5〜7人のチームに分かれて、それぞれのアイデアを出し合っていきます。みなさんのチームはどんなふうに企画を練っていったのでしょう?
神澤:私たちがまず着手したのは、八王子市の農業が抱えている問題点の洗い出しです。職員の方のお話や、市が発行している資料をもとにしたり、実家が農家のメンバーもいたので、日本の農業をめぐる状況についてもリサーチを進めました。「公認野菜を制定する」というコンセプトが固まってからは、青果物の品質に関わる等級がどんな基準で決められているのかを確認し、PRのためのSNS広告を出稿する手順や、ほかの地域がどんな広告を制作しているかを調べていきました。
岡咲:正直にお話しすると、私たちのチームは企画がコロコロと変わったんです。はじめは商店街を活性化する企画を考えていたのですが、あまり現実的ではないと助言をいただいて。住民同士でやり取りできるポストをつくってみたらどうかとか、いろいろと考える中で「市のシンボルであるいちょうの木を使う」という方向性が見えてきました。
佐々木:私たちははじめに一人10個ずつ企画を考えて、多数決で2つに絞り、先生のアドバイスも参考にしながらブラッシュアップしていきました。今回の企画のもとになった医食同源のほかに、高齢者同士のマッチングサービスというアイデアがあって、それらをうまく掛け合わせたことで、運動と食事だけでなく、共同作業で参加者の交流を図るという三本目の柱が立てられたと思います。
元木:企画段階からQRコードがキーワードにあって、それで何かできないかと試行錯誤するなかでクイズというアイデアが出てきました。市のことを知ってもらうためにはただ伝えるだけではつまらない。自分たち、つまり施策の対象となる学生に興味を持ってもらえるものを突き詰めた結果、クイズなら気軽に参加してもらえるし、楽しみながら理解を深めてもらえるのではないかと思いました。
——メンバー同士で顔を突き合わせて議論をしたり、アンケートやインタビューのためのフィールドワークも限られました。プロジェクトを進めるうえで、苦労したことはありますか?
神澤:Zoomを使った会議が初めてで使い慣れていなかったし、タイムラグの問題や、1つの話題を話し終えるまでに時間がかかるなど、直接会って話すときより議論が活発化しなかったことです。ただ、議論が煮詰まったら雑談を挟んでリセットしてみるなど工夫しました。
岡咲:私も同じ意見です。特に私たちのチームは“顔出し”をしなかったので、声だけだと相手の感情が読みづらく大変でした。
佐々木:意識的にアイスブレイクを挟んでいたので、Zoomでのコミュニケーションにストレスは感じませんでしたが、朝早くからのミーティングはメンバーを揃えるのが大変でした(笑)。ただ、パソコンで画面共有しながらの話し合いでデータのやり取りもスムーズにでき、対面よりも進捗を確認しやすかったと思います。
元木:それで言うと、移動時間がなくなったのも大きかったです。その時間を作業に当てられたのはメリットでした。
神澤:確かに。大学に来ていたら集まれなかった時間帯や、急に話したいときにも都合をつけやすかったです。
企画を振り返って感じること
——2020年7月25日には、関係者のみの限定公開でオンラインのプレゼンテーションが行われました。プレゼンを終えた今、改めて企画を振り返ってみてどのように感じていますか。
元木:企画自体には満足していて、限られた環境の中で最大限のことをやれたと自負しています。チームで協力し合ってかたちにできた達成感もありました。一方で、コロナ禍という状況に左右されない企画を出したつもりだったのに、フィードバックはコロナありきで、もっと企画自体に目を向けてもらえていたら……という思いもあります。
佐々木:私は逆に、コロナ対策をもっと考えていればという反省があります。企画の初期段階で、農業の企画が欲しかったから実現したいと職員の方に言っていただき、それを目標に頑張っていたのですが、提案した農作業体験をこの状況下で実施するのは現実的ではないし。実現が難しい企画になってしまったことが残念です。
岡咲:面白いという意見もありましたが、この企画が地域住民にどんな効果があるのかが詰められていないというご指摘もいただきました。鹿島・松が谷地域に住みたくなるというテーマに、本当に応えられていたのかどうかをもう一度考えてみたいです。完成させることに必死になって、本来の目的からズレてしまったのではないかと……。どんな状況でも目的を忘れずに、テーマに沿った企画を固められればよかったです。
神澤:広報までよく考えられていると評価していただきましたが、誰が実行するのか、その仕組みまでしっかり提案できればよかったです。もともとLINE広告を想定していたのですが、広告費がかかり過ぎるとわかって急遽Twitterでの広報活動に変更したので、一番やりたいかたちで提案できなかったし、もっと違うやり方があったのではないかというのが反省点です。
本プロジェクトでの学び
——「企画表現5」は地域の方々だけでなく、異なる分野を専攻する学生たちと協力し合う協働作業を重視しています。リーダーとしてチームを率いるなかで、気づいたことや学びになったと感じたことはありますか。
神澤:一番養われたと感じるのは協創力です。また、どうすればチームの雰囲気が良くなるか、やる気をもって進めてもらうにはどうすればいいかと意識したことで、信頼関係を築きながらチームをまとめる力や、日々の行動を習慣化し、課題に取り組む姿勢を身につけることができたと思います。
佐々木:私はチームを引っ張っていくことが得意ではなく、リーダーをするようなタイプではなかったのですが、メンバーや先生からサポートしてもらえたことがありがたかったです。頑張っていれば助けてくれる人がいると実感できたし、この授業で生まれ変われたと思います(笑)。
岡咲:仲間と協力することや、目標を持つことの大切さを改めて感じました。お互いに協力の仕方を考えれば、もっと良いものがつくれたと思うし、テーマがあるにもかかわらず、計画と目標がごちゃごちゃになってしまったので。この2つを意識しながら今後は行動していきたいです。
元木:人に頼ることもチームで作業するうえで大事なことだと感じました。リーダーだからといってすべてを請け負うのではなく、リーダーだからこそ頼ることも大切なんだなと。また、3年間の「企画表現演習」を通して、相手の立場を想像する姿勢が身についたと思います。文章にしてもプレゼンテーションにしても、相手にはどう伝わっているか、相手はどう感じるかと想像できるようになったし、「デザインとは相手を考えること」だと確信を持てました。
次年度に向けて
コロナ禍によって全面オンラインという前例のない形でのプロジェクトとなったものの、八王子市をはじめとする関係者のみなさまのご協力により、例年と遜色なく、学生たちは多くの学びを得てくれたようです。
次年度は、「日本遺産『霊気満⼭ ⾼尾⼭』を活⽤しやすい仕組みについての企画提案」「児童館を若者に魅⼒ある拠点『(仮)ユースセンター』にするための企画提案」「⿅島・松が⾕地域のまちを使った活動についての企画提案」「学⽣の『学園都市センター』利⽤率向上のための企画提案」の4つの課題が予定されています。今後も本プロジェクトを通して、地域貢献・地域活性化に貢献してまいります。
八王子活性化プロジェクト2020 特設WEBサイトへ▶︎ https://kenkyu.hino.meisei-u.ac.jp/k5-2020/